ベンゾジアゼピン離脱症候群の当事者として
今わたしは、自らが体験したベンゾジアゼピン系抗不安薬の離脱症状から、薬害被害者の生の声とわたしが感じた精神医療の問題点についてお伝えしたくこの記事を書いています。
この度は、わたくしの思いもよらない体調不良により、ご心配をおかけしてしまい申し訳ございません。2016年11月から目の奥の激しい痛み、歯茎の痛み、胸の痛み、のどの痛み、寝汗、食欲増進、急激な体重減少、筋肉硬直、頻尿、バセドウ病様症状など、今まで無かった症状が出始めました。このため、掛かりつけの眼科、歯科、内科、脳神経外科などを受診しましたが、どこも異常なしと言われ、何の治療もされないまま、今まで症状に堪えてきました。体重は10kgも減少してしまいました。
2017年1月にバセドウ病を疑い甲状腺内科を受診した際に、血液検査の結果から「抗サイログロブリン抗体(TgAb)」の値が陽性ということで、「橋本病」と言われましたが、甲状腺機能が正常で、特に症状は現れていないので、治療の必要はないとのこと。定期的に甲状腺機能検査を受ければ良いということで、今回の症状とは直接関係はありませんでした。
2016年11月から現在まで、一番辛いのは両目の奥の激しい痛みだったのですが、痛みにはロキソニン(痛み止め)は全く効きませんでした。ある時、残っていたセパゾン(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)を服用したら、痛みが治まったことから、調べてみたところ、ようやく「ベンゾジアゼピン離脱症候群」であることが分かりました。
「ベンゾジアゼピン離脱症候群」は、ベンゾジアゼピン系薬の服用により身体的依存が形成されてから、用量を減量するか、断薬することによって生じる一連の離脱症状です。抗不安薬や睡眠薬の多くは、ベンゾジアゼピンと呼ばれる化学物質でできています。大量に飲んでも直接命にはかかわらないため「安全な薬」とされていますが、長期に服用すると効き目が落ちる耐性が生じることや、薬物依存に至る例が多いことが以前から知られています。ベンゾジアゼピン系以外の抗不安薬・睡眠薬も、同様の作用を持つものがあります。
麻薬と一部の向精神薬は「麻薬及び向精神薬取締法」という法律によって規制を受けています。なぜなら、麻薬も向精神薬も、脳内の神経伝達物質に作用し、さまざまな精神症状を引き起こす点においてまったく同じメカニズムをもっているからです。違うのは、前者の製造・販売・使用が原則的に禁止されているのに対して、後者は製薬会社が製造し、精神科医をはじめとした医師が「販売」し、「患者」が使用する限りは合法であり、前者の麻薬でさえ医療用であれば合法化されているという点だけです。ベンゾジアゼピン系の薬こそ、「麻薬及び向精神薬取締法」のなかの「向精神薬」の大部分を占めています。
ベンゾジアゼピンの長期服用は、神経伝達物質GABAが媒介する生体本来の鎮静機能の多くを支配しています。結果として脳内GABA受容体は数を減らし、GABA機能は低下します。ベンゾジアゼピンから突然離脱すると、脳はGABA活動性低下状態のままであり、その結果、神経系統の過興奮が引き起こされます。この過興奮が離脱症状のほとんどの根本原因となっています。
わたしは2004年にうつ病を発病して以来、「セパゾン」というベンゾジアゼピン系抗不安薬を10年近く服用してきました。わたしは薬を止めたかったのですが、主治医に「お守りだと思って飲めば良い」と言われ服用し続けましたが、昨年秋に調子が良く不安感も無くなったので、ほぼ独断で服用を止めました。しかし、10年服用し完全に依存しているのに、急に止めたことで脳神経系統が過興奮を起こし、重篤な症状が出たと思われます。
精神科病院の主治医には、「離脱症状ではないか?」と訴えても、「離脱症状は何ヶ月も続かない」「今はうつ病が再発している」と言われました。わたしは納得がいかず、しつこく「離脱症状ではないか?」と訴えると、いつもと様子が違うからと入院を勧められました。納得できませんでしたので、拒否しましたが、信頼してきた主治医だっただけに、ショックでした。
主治医からは、「セパゾン」の依存性が高いことも、急に服用を止めたらいけないことも、注意を受けたことは一度もありませんでした。しかし、このベンゾジアゼピンについては、厚労省医薬・生活衛生局が2017年3月21日、催眠鎮静剤、抗不安薬、抗てんかん薬で使用されるベンゾジアゼピン受容体作動薬などの医療用医薬品について、承認用量の範囲内でも漫然とした継続投与により依存性が生じることがあるとして、医療現場に注意喚起するため44成分の添付文書を改訂するよう、日本製薬団体連合会に通知で指示し、併せて、改訂内容を周知するよう日本医師会、日本薬剤師会、日本病院薬剤師会ほか、日本精神神経学会など関連学会に通知で依頼しています。
欧米では、治療指針で処方期間を4週間以内とするなど、早くから対策が講じられていますが、日本では、多くの精神科医や内科医が「飲み続けても安全」と、漫然と使い続け、国連の国際麻薬統制委員会の2010年報告では、日本はベンゾ系睡眠薬の使用量が突出して多く、同一人口当たりの使用量は米国の約6倍だそうです。主治医はただの勉強不足なのでしょうか?今回、松本市の個人のクリニックも受診しましたが、同様のことを言われました。現実には、わたしの主治医に限らず、多くの精神科医が同じような状況のようです。
ベンゾジアゼピンの依存を理解し、減薬指導ができる医師が居ないか、長野県内を中心に探しましたが、見つかりませんでした。ようやく、ベンゾジアゼピン依存を離脱するための専門的治療で実績があるという診療所を探し、2017年5月13日に受診しました。やはり、「ベンゾジアゼピン離脱症候群」ということで、減薬に向けた薬が処方されました。現在、隔週で通院しています。今の所、以前より、痛みが軽くなり辛さを感じなくなりました。
「ベンゾジアゼピン離脱症候群」は、思わぬ症状が出てしまいますが、薬の履歴、服用量、などによって個人差が出るようです。症状が出ない人もいるようです。今回、わたしが他の方の体験談を調べてみると、「弱いし安全な薬だから、一生飲んでも大丈夫」と言われ服用し、その依存性については、処方の際に注意を受けていないことがほとんどであること。もし、離脱症状が出てそれを医師に訴えても「離脱症状は4週間で消える」「それはあなたの元々の症状です」などと退かれ、行き場を失った人がネットで必死に情報を探しながら、模索しているのが現状です。少数の例では厳しい症状が起こり、統合失調症や発作性疾患などの深刻な精神病に似た症状となるケースもあり、ベンゾジアゼピン離脱症候群の最悪の症例は自殺です。
後で明記します『アシュトンマニュアル』には、「離脱症状はベンゾジアゼピンの断薬後、数週間、または数ヶ月続く可能性がある。」しかも、「患者のあるグループでは亜急性レベルで数ヶ月、または年、あるいはそれ以上続く可能性がある。」としています。これまで、離脱症状はあっても数週間、 と医師から言われた人は多いのではないでしょうか。しかし、数ヶ月、年、あるいはそれ以上続く可能性もあるのです。この事実をなぜ医師は知らないのでしょうか。
減薬の知識がない医師、ベンゾジアゼピンは一生服薬しても安全だと平気で言う医師が多いのです。そして、現状患者が自己判断で減薬しているのが現状で、また離脱症状に悩んだ時、どこに相談して良いのか分からないのです。それはとても孤独で不安なことです。
医療不信を煽るような発言はしたくないのですが、ベンゾジアゼピンに関する日本の状況は、あまりにもひどいと言わざるを得ません。これからわたしは、一人でも多くの人がベンゾジアゼピンによる常用量依存の恐ろしさを知り、それから離脱できること、常用量依存にならないために、自らの体験を踏まえながら、情報発信し行動していきたいと思います。
●減薬、断薬ができる医師がいる病院の情報共有
長野県内でベンゾジアゼピンの減薬、断薬治療が受けられる病院や診療所があれば、情報提供をお願いします。東京には、該当するいくつかの病院がありますが、保険適用外の自費がほとんどです。そこでは、数万円のサプリを買わないといけないなど、お金が掛かり過ぎるのです。(わたしが通院している診療所は、保険適応です。)
●サポートできる人の育成
実際には離脱症状に対してはフィジカル面・メンタル面ともに適切なサポートが必要であり、薬物療法のクローズ時にはこうしたサポートの有無が服薬者のその後の人生に大変な影響力を持ちます。わたしは、幸いにして仕事を続けられていますが、減・断薬に取り組む方は、その症状と職種のバランスにより、仕事の継続か休職・退職かを選択しなければならないケースもあります。
●特化した専門医療機関の設置拡充
医療現場での取り組みも一部で始まっています。処方薬依存の紹介患者が急増している肥前精神医療センター(佐賀県)では、専門外来で患者の減薬治療と心理的サポートを始めているそうです。長野県でも始められることを願っています。
今回、ベンゾジアゼピン離脱症候群に関して、とても役に立った資料があります。『アシュトンマニュアル』というものです。英国ニューカッスル大神経科学研究所のヘザー・アシュトン教授が、ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱専門クリニックで多くの患者を減薬、断薬させた経験をもとに、段階的な減薬法などをまとめた手引書。日本語版を含む10か国語に翻訳され、インターネット(http://www.benzo.org.uk/manual/index.htm)で公開されています。ダウンロードすると114ページありますが、ぜひ一度読んでみてください。
わたしの減薬・断薬治療も、始まってまだ4週間目です。セパゾンを微量ずつ減量していくため、非常に時間がかかります。離脱症候群の患者の中には、断薬まで1年以上かかる人もいるようですが、担当医からは、3ヶ月位をメドにと言われています。服用期間が10年と長いため、本当に断薬できるのか不安もありますが、担当医を信じて治療に臨みたいと思います。
2004年にうつ病を発病し、12年かけてようやく全ての薬がいらなくなり、「もう、これでうつ病ともさよならできた」と喜んだのも束の間、うつ病以上の耐え難い身体症状が出て、各診療科の医師からは「異常なし」言われ、厄介者扱いされ、一時は自殺も考えましたが、諦めずに痛みの原因を探し続けて良かったです。
一人でも多くの人がベンゾジアゼピン系薬の依存にならないために、それから離脱できるために、正しい知識と情報が共有されることを願っています。
2017年6月5日
任意団体うつリカバリーエンジン
長谷川 洋